~前十字靱帯とは~
前十字靭帯は膝関節の中で、大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)をつないでいる強力な靭帯で、その役割は、主に大腿骨に対して脛骨が前へ移動しないような制御(前後への安定性)と、捻った方向に対して動きすぎないような制御(回旋方向への安定性)の2つがあります。
つまり、この靭帯を損傷すると、膝は前後方向および回旋方向の2つの方向に緩くなります。

図1:膝関節の解剖
~原因と症状~
前十字靱帯損傷は、ストップ、ターン、カッティング、ジャンプの着地などで膝を強く捻り、膝がガクッと外れて損傷することが多いようです。 主な症状は「膝がグラグラする」「膝が抜けた感じ」がして、脱力感のためスポーツが困難な状態となります。時間が立つにつれて関節に血液がたまり、関節の腫れと痛みで膝の動きが悪くなりますが、通常は2~4週間ほどで痛みや腫れは改善し、日常生活などは普通にできるようになります。しかし、スポーツ復帰したときに、再度膝がガクッと外れる(膝くずれ)が起こりやすくなります
。
~治療法の選択~
膝くずれの防止が治療の最大目標である。損傷した前十字靭帯は修復せず、以下の事を考慮し治療を選択します。 ●手術療法を選択する場合
1)スポーツ復帰後も再度膝くずれが起きる場合
2)日常生活レベルでも方向転換などで膝くずれが起きる場合
●保存療法を選択する場合
1)普段スポーツをせず、日常生活レベルで支障がない場合
2)レクレーションレベルで、スポーツ復帰後も膝くずれが起きない場合
~手術療法~
●前十字靱帯再建術 <br>
1)前十字靭帯損傷時の受傷機転は膝30~0゚で膝を強く捻った肢位であります。当院ではそのことを考慮し、膝30~0゚で緊張する靭帯を作成することで前方・回旋不安定性を制御する機能的靭帯再建を行っています。(図4~6) <br>
2)移植腱として半腱様筋(はんけんようきん)と薄筋(はっきん)という、もも(大腿)の後ろの筋肉の腱を使用します。AMB(前内側線維)PLB(後外側線維)2本の靭帯を作成し、2束
靭帯再建術を行っています。 <br>
(図3)
3)①採取した靭帯を移植するための骨孔作成(骨の穴あけ作業)
骨孔の位置は1~2mmの誤差範囲で理想的なポイントに作成します。
*先ほど説明したように、膝30~0゚で緊張する靭帯を作成することで前方・回旋不安定性を制御する機能的靭帯再建を行っています。
~手術療法~
当院では、関節鏡を用いて10mm弱の低侵襲の創部を2~3箇所作成し、鏡視下関節鏡手術を行います。半月板損傷の手術には、半月板縫合術と半月板切除術に分かれ、半月板の断裂形態・部位、年齢、活動レベルなどを考慮し、選択されます。
③膝0度から屈曲120度までの移植靭帯の 緊張の平均値 <br>
膝30~0度 :1mm緊張 <br>
膝30~120度:2mm緩む
4)内視鏡手術で大腿骨に2箇所、脛骨に2箇所の穴をあけ、再建靭帯の両端は人工靭帯に連結し、<br>
上下端は特殊な固定金具で留めています(図7)
~術後リハビリテーション~
手術後翌日より、リハビリテーションを開始します。術後早期は膝周囲の筋力低下予防、膝関節の硬さ予防を徹底して行います。また、術後経過日数・状態に合わせたトレーニング、スポーツ内容をその都度医師・理学療法士と相談し決めていきます。スポーツ復帰に向けた時期は、再受傷予防トレーニングも十分行っていきます。<br>(図3参照)
<br><br><手術後の流れ><br> ●手術後翌日より装具装着し、歩行開始します。<br>
●入院期間は約2週間で、装具装着(図1)杖なし歩行での退院となります。<br> ●術後2ヶ月は膝伸ばし-30°ストップ:再建靭帯に伸張ストレスが加わり弛む可能性がある為。<br>
*術後3ヶ月で完全に伸ばせる状態を目指し、リハビリを行います。 <br>●術後3ヶ月より装具除去開始<br> ●術後4ヶ月以降、ジョギング開始
<br>●術後6ケ月以降 競技基礎練習開始<br>
●術後8ヶ月以降 試合形式練習<br> ●術後10ヶ月 完全復帰<br>
(図2参照)